習ってないからわかりません
「考える練習」をしていかないと、子どもはどこかで行き詰まってしまいます。
私は中学生に理科を教えていますが、理科には大きく分けて、
- 覚えなければならないこと
- 考えれば分かること
の二種類があります。
ところが、理科が苦手な子の多くは、「覚えていないから分からない」と考えてしまいます。
保護者の方の中にも、
「理科や社会は暗記科目ですよね」
とおっしゃる方がいます。
社会は確かに暗記の割合が大きいですが、理科は違います。
理科は考え方を身につけることで、覚える量を大幅に減らすことができる科目です。
例えば中学3年生で学習するイオン。
塩酸の化学式は HCl です。
これは
H⁺ + Cl⁻
に分かれることを覚えている生徒は多いです。
では、硝酸の HNO₃ はどうでしょうか。
HNO₃ が電離すると、
H⁺ + NO₃⁻
になります。
しかし、多くの生徒は NO₃⁻ を習っていません。
すると、
「習ってないから分かりません」
と言うのです。
でも少し考えれば分かるはずです。
H はプラスになる。
全体としては電気的にプラスマイナスゼロでなければならない。
ということは、残った NO₃ はマイナスになるはずだ。
ここまで考えられれば、NO₃⁻ という答えにたどり着けます。
もちろん正式には覚える必要があります。
しかし、まずは考えてみることが大切です。
ところが最近は、
「習っていないことはできない」
「教えてもらっていないから分からない」
という考え方の子が非常に増えているように感じます。
実際、大手進学塾から転塾してくる生徒の中にも、
習ったことから少しでも外れると全く考えられなくなる子が少なくありません。
本来なら、
「たぶんこうじゃないかな」
と推測してみればいいのです。
間違えたら、その時に覚えればいい。
しかし最初から考えようとしない。
これでは高校に入ってから苦労します。
高校の勉強は、中学のように丸暗記だけで乗り切れる量ではありません。
考え方で知識をつなげていかなければ、どこかで必ずパンクしてしまいます。
だからこそ、小学生や中学生のうちから「考える癖」をつけておくことが大切なのです。
以前、ある会社の社長さんから聞いた話があります。
その会社はビルの4階にあり、エレベーターの場所が非常に分かりにくいそうです。
ある日、大切なお客様が初めて来社されることになりました。
社長は新入社員に、
「お客様が迷うかもしれないから、下で見てきてくれ」
と指示しました。
ところが約束の時間を過ぎても、お客様も新入社員も上がってきません。
不思議に思った社長が下へ降りると、お客様は案の定エレベーターの場所が分からず困っていました。
そしてその横で、新入社員がただ立って見ていたのです。
社長が
「何をしているんだ!」
と言うと、
「見ていましたよ」
と答えたそうです。
さらに、
「案内してほしいなら、そう指示してください」
とまで言ったそうです。
皆さんはどう感じるでしょうか。
普通なら、お客様が困っていたら案内しますよね。
しかし、その新入社員は、
「言われたことしかやらない」
「言われていないことは考えない」
という思考になっていたのです。
実はこれ、
「習ってないから分かりません」
という勉強の姿勢と本質的には同じです。
言われたことだけをやる。
教えられたことだけを覚える。
それ以外は考えない。
この姿勢のまま大人になると、社会に出てからも苦労します。
社会では、誰も答えを教えてくれない場面がたくさんあります。
初めての仕事。
初めての人間関係。
初めてのトラブル。
そんな時に必要なのは、知識そのものよりも、
「今ある情報から考える力」
です。
勉強とは、単にテストで点数を取るためのものではありません。
考える力を鍛えるための訓練でもあります。
だから私は、ただ解き方を教えるだけの勉強ではなく、
「なぜそうなるのか」
「他の場合はどうなるのか」
「習っていないけれど考えたら分からないか」
を常に問いかける授業を大切にしています。
そして、そうした考える習慣を身につけさせてくれる塾を選ぶことも、保護者の皆様にとって非常に重要だと思います。
その場しのぎで点数を取るだけの勉強ではなく、将来社会に出ても通用する「考える力」を育てる。
それこそが、本当に価値のある教育なのではないでしょうか。

