塾選びの基準 ― 個別指導編
今回は、「塾選びの基準・個別指導編」ということでお話ししたいと思います。
個別指導の塾といっても、先生1人に対して生徒1人のところもあれば、1対2、1対3、1対4など、いろいろな形があります。
個別指導というと、
「我が子のペースに合わせてくれる」
「分からないところを丁寧に教えてくれる」
「集団授業についていけない子でも安心」
そんなイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。
もちろん、それは間違いではありません。
ただ、私は個別指導が良いとか悪いとか、そういう話をしたいわけではありません。
大切なのは、
「その塾の特徴が、我が子に合っているのか」
ということです。
個別指導を選ぶ際には、特に3つのことに注意してほしいと思っています。
① 子どものペースに合わせすぎていないか
例えば、一斉授業の塾についていけなくなったので個別指導に移る、というケースはよくあります。
個別指導なら、その子が分かるまでゆっくり説明してもらえます。
本人からすると、とても分かりやすい。
「前の塾より分かるようになった」
と感じるかもしれません。
ただし、ここで注意しないといけないことがあります。
その子のペースに合わせることと、受験に間に合うペースで勉強することは別の話です。
勉強が苦手な子の現在のペースにそのまま合わせてしまえば、当然、学習進度は遅くなります。
本人は分かりやすくて満足している。
保護者の方も「嫌がらずに塾へ行っているから良かった」と安心する。
しかし、1年後、2年後に見たときに、
学校の進度に追いついているのか。
入試範囲をきちんと終えられるのか。
受験前に十分な演習期間を確保できるのか。
ここまで考えなければなりません。
個別指導を選ぶなら、
「分かりやすく教えてもらえているか」だけではなく、「必要な学習ペースが保たれているか」
をぜひ確認してほしいと思います。
② 目の前の問題ではなく、その子の能力が伸びているか
個別指導では、先生が横にいて、
「分からないところある?」
「学校の宿題で困っているところない?」
と丁寧に対応してくれることも多いと思います。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
困っている問題を解決してもらえるのですから、非常に便利です。
ただ、教育というものを長い目で考えたときに、
「今日、この問題が解けたか」
だけを見ていていいのでしょうか。
私がもっと大切だと思うのは、
「1年後、2年後に、この子自身の能力が上がっているか」
ということです。
例えば、考える力を伸ばしたいのであれば、簡単な問題ばかり解いていても、なかなか力はつきません。
私自身の経験則では、その子が今できる問題よりも、ほんの少し難しい問題。
感覚的には、その子の実力の「1.1倍くらい」の問題を与えることが大切だと思っています。
もちろん、1.1倍という数字に学術的な根拠があるわけではありません。
私が長年子どもたちを見てきた中で感じていることです。
3割も4割も難しい問題を突然与えても、
「こんなん無理や」
となってしまいます。
逆に、簡単すぎる問題では頭を使う必要がありません。
「ちょっと難しいな」
「でも、頑張ったらできるかもしれない」
そのくらいの問題に挑戦させ続ける。
分からなければ考える。
試してみる。
間違える。
もう一度考える。
そういう経験を積み重ねることで、その子自身の「考える力」が少しずつ上がっていきます。
そして、
「この子にとっての1.1倍はどこなのか」
を見極めることこそ、私は先生の腕の見せどころだと思っています。
学校の定期テストの点数は上がった。
でも、頭そのものはあまり良くなっていなかった。
その結果、入試のような初めて見る問題になるとうまくいかなかった。
私は、そんな状態を目指したいとは思いません。
極端な話をすれば、学校の点数が多少パッとしなかったとしても、子ども自身がどんどん賢くなって、最後の入試でバシッと力を発揮できる。
私はその方がいいと思っています。
め塾も、そういう考え方に共感していただける保護者の方と、一緒に子どもを育てていけたらと思っています。
③ 「分かりやすく教えること」だけが良い指導ではない
もう一つ、個別指導を選ぶ際に知っておいていただきたいのが、大学生講師の存在です。
個別指導塾では、大学生の先生が授業を担当するケースも少なくありません。
大学生の先生は、生徒との年齢も近い。
話も合う。
お兄ちゃん、お姉ちゃんのような存在なので、子どもも楽しく通います。
そして大学生の先生も、
「学校の先生より先生の方が分かりやすいわ!」
なんて言われるとうれしいんですね。
実は私自身も大学生の頃、塾でアルバイトをしていました。
生徒に、
「先生、むちゃくちゃ分かりやすいわ」
と言われて、
「せやろ」
と調子に乗っていました。
そして、分からない問題があれば、とにかく噛み砕いて、噛み砕いて、できるだけ分かりやすく説明していました。
もちろん、悪気なんて全くありません。
むしろ150%くらいの親切心です。
生徒も喜ぶ。
私もうれしい。
保護者の方も子どもが喜んで塾に通っているので安心する。
みんなが満足している、とても幸せな状態です。
でも、後になって考えてみると、
「あの子たちは、本当に賢くなったのだろうか」
と思うんです。
目の前の問題は解けるようになった。
でも、私が全部噛み砕いて説明してしまったことで、その子自身が考える機会を奪っていた部分もあったと思います。
「分かりやすく教えること」と、
「子ども自身の能力を伸ばすこと」は、
必ずしも同じではありません。
これは大学生の先生が悪いという話ではありません。
私自身がそうだったように、経験が浅い頃はどうしても、
「分かりやすく説明できる先生=良い先生」
だと思いやすいのです。
しかし長く子どもたちを教えていると、
あえてすぐには教えない。
少し考えさせる。
ちょうどいい難易度の問題を与える。
どこまでヒントを出すかを判断する。
そういうことの方が、子どもの能力を伸ばす上では重要な場面があると分かってきます。
これはやはり、10年、20年と子どもたちを見てきた経験がものをいう部分も大きいと思います。
ただ、経験豊富なプロの先生に完全な個別指導をお願いすれば、当然授業料も高くなります。
ここが個別指導の難しいところでもあります。
塾は「良い・悪い」ではなく、道具です
ここまで読むと、
「では、個別指導はやめた方がいいんですか?」
と思われるかもしれません。
全くそういう話ではありません。
個別指導には個別指導の良さがあります。
苦手な単元を集中的に見てもらう。
学校で分からなかったところを短期間で補う。
自分の弱点だけをピンポイントで教えてもらう。
そういう使い方なら、非常に効果的な場合もあります。
以前、大手学習塾についてもお話ししましたが、私は塾というものは**「道具」**だと思っています。
例えば、金槌には金槌の役割があります。
かんなには、かんなの役割があります。
釘を打ちたい人にとって、性能のいい金槌は素晴らしい道具です。
でも、木を薄く削りたい人に、
「この金槌、むちゃくちゃいいですよ!」
と勧めても意味がありません。
道具そのものが良いか悪いかではないんです。
「自分が何をしたいのか。その目的に、その道具が合っているのか」
これが大切です。
塾選びも同じです。
有名だから。
子どもが楽しそうだから。
先生が優しいから。
説明が分かりやすいから。
それだけで決めるのではなく、
「我が子に今、何が必要なのか」
をまず考えてみてください。
その上で、個別指導の長所と短所を理解して利用する。
足りない部分があれば、家庭で補ってもいい。
別の学習環境で補ってもいい。
子ども自身に意識させてもいい。
塾にすべてを任せるのではなく、
塾の特性を見極めて、上手に使いこなす。
これが、我が子に合った塾を選ぶ上で、とても大切なことだと思います。


