塾選びの基準 ― 自立学習編
最近、「自立学習」という言葉を掲げる学習塾が増えてきたように思います。
自立学習と聞くと、
「それって、要するに自習なんじゃないの?」
と思われるお母さんもいらっしゃるかもしれません。
でも、私は自立学習そのものを否定しているわけではありません。
むしろ、本当にきちんと設計された自立学習であれば、非常に学力が伸びる勉強方法だと思っています。
高校生くらいになると、先生が一から十まで授業をするのではなく、
「この参考書を、この順番で、ここまでやりなさい」
と学習計画を立て、その進み具合を管理するような塾もあります。
ある程度自分で考えて勉強できる高校生であれば、こういった方法は非常に有効な場合もあるでしょう。
ところが最近は、この「自立学習」という考え方が、小学生や中学生の塾にも広がってきています。
ここで、お母さん方にぜひ知っておいていただきたいことがあります。
「自立学習」という名前だけでは、中身は分からない
最近はAIやIT技術が発達し、塾向けの学習システムが本当にたくさん販売されています。
私たち塾を経営しているところには、そういった教材会社やシステム会社から、いろいろな案内が届きます。
動画授業を見て、問題を解いて、正誤を入力すると、次にやる問題をシステムが自動的に提示してくれる。
中には、
「講師がほとんどいなくても運営できます」
「未経験でも学習塾を開業できます」
といったことを売りにしているものまであります。
つまり、極端な話をすれば、教育経験がほとんどない人でも、システムを導入すれば「自立学習塾」を作ることができる時代になってきているわけです。
もちろん、そのシステム自体が悪いわけではありません。
素晴らしい教材もたくさんあります。
また、自立学習という方法を使いながら、非常に高い教育理念を持って、生徒一人ひとりを真剣に育てておられる先生もたくさんいらっしゃいます。
問題なのは、
「自立学習」という名前だけを見ても、その塾の教育の中身までは分からない
ということです。
教えすぎてもダメ。教えなさすぎてもダメ。
私は以前から、先生が何でも教えすぎることには問題があると思っています。
子どもが少し考えれば分かることまで全部先生が説明してしまえば、子どもは自分で考えなくなります。
分からなければ先生に聞けばいい。
そういう状態になってしまうと、自分で考える力はなかなか育ちません。
だから「教えすぎない」という考え方は、とても大切です。
しかし反対に、
教えなさすぎるのも問題です。
教材を渡して、
「ここからここまでやっておいて」
分からなければ動画を見る。
丸付けをする。
間違えたらもう一度やる。
これだけで本当に子どもの能力が伸びるのでしょうか。
私は、そこにこそ「先生の力量」が必要だと思っています。
先生の仕事は、答えを教えることではない
今の時代、問題の答えを知るだけなら、それほど難しいことではありません。
数学の問題でも、写真を撮れば解き方を表示してくれるアプリがあります。
YouTubeを探せば、学校の授業内容を丁寧に解説してくれている動画もたくさんあります。
つまり、
「この問題はこうやって解くんやで」
と教えるだけなら、先生でなくてもできる時代になりつつあります。
では、先生には何が必要なのでしょうか。
私は、
その子の今の能力より、ほんの少しだけ上のことを考えさせること
だと思っています。
例えば、ある問題ができたとします。
そこで終わるのではなく、
「じゃあ、数字が少し変わったらできる?」
「この条件が一つなくなったらどうなる?」
「これ、前にやった問題と何が同じ?」
というように、少しだけ角度を変えて考えさせる。
今できることから、3ミリだけ難しいところへ連れていく。
その3ミリを積み重ねていくことで、子どもの考える力は伸びていきます。
これこそが、先生の仕事だと私は思っています。
ほったらかしても伸びる子は一定数います
どんな塾にも、ある程度自分で勉強できる子はいます。
100人いれば、15人とか20人くらいは、かなり自立して勉強できる子がいるでしょう。
そういう子は、教材を渡して、
「これをやっておきなさい」
と言われても、自分で考え、自分で修正し、どんどん進んでいきます。
極端に言えば、どこの塾へ行ってもある程度伸びる子です。
自立学習型の塾でも、当然そういう子は伸びていきます。
そして、その子が難関高校や難関大学に合格すれば、
「〇〇高校合格!」
「〇〇大学合格!」
という実績になります。
もちろん、それ自体は嘘ではありません。
ただ、お母さんに考えていただきたいのは、
「その子が合格した」ということと、「その塾に入れば我が子の能力も伸びる」ということは、必ずしも同じではない
ということです。
塾を見るときには、トップ層の合格実績だけを見るのではなく、
「普通の子をどう伸ばしているのか」
「勉強が苦手な子に何をしているのか」
を見る必要があります。
本当に見るべきなのは「システム」ではなく「人」
自立学習塾に限った話ではありません。
個別指導でも、集団指導でも同じです。
教材が素晴らしい。
AIシステムを導入している。
動画授業が充実している。
カリキュラムが細かく作られている。
もちろん、それらも大切です。
でも結局、
その道具を使って、目の前の子どもをどう伸ばすのか。
そこを考えるのは人です。
今、この子は何につまずいているのか。
知識が足りないのか。
文章を読めていないのか。
話を聞けていないのか。
考える前に答えを言ってしまう癖があるのか。
間違いを直す習慣がないのか。
そういったところを見抜き、その子に必要な働きかけをする。
私は、それが教育だと思っています。
「自立学習です」と言われたら、ここを見てください
塾選びの際に、
「うちは自立学習です」
と言われたときには、それだけで良い塾とも悪い塾とも判断しない方がいいと思います。
ぜひ、
「先生は普段、生徒にどんな声かけをしているのか」
「分からない問題が出たとき、すぐ教えるのか、それとも考えさせるのか」
「勉強のやり方が悪い子には、どのように改善させるのか」
「教材を進めること以外に、どんな力を育てようとしているのか」
というところを見てみてください。
ただ、実際にはこれを外から見抜くのは非常に難しいと思います。
説明会で話を聞けば、どこの塾でもある程度立派な話はします。
大きな塾になれば、保護者への説明方法までマニュアル化されている場合もあります。
だから最終的には、入塾して終わりではなく、
お子さんが塾でどう変わっているのかを、少し長い目で見ていくこと
が大切だと思います。
点数だけではありません。
以前より自分で考えるようになったか。
分からないときに粘るようになったか。
間違えた問題を自分で直すようになったか。
人の話をきちんと聞くようになったか。
勉強に対する姿勢が変わってきたか。
そういった変化も含めて見ていただきたいのです。
自立学習は、ちゃんとやれば非常に素晴らしい学習方法です。
しかし、
「一人で勉強させること」と「自立させること」は、まったく違います。
放っておくことが自立ではありません。
子どもが一人でできるようになるまで、必要なところでは支え、必要なところでは考えさせ、少しずつ手を離していく。
それが本当の意味での「自立学習」ではないでしょうか。
塾を選ばれるときには、「自立学習」という言葉を見るのではなく、
その塾は、本当に我が子を“自立できる子”に育てようとしているのか。
そこをぜひ見ていただきたいと思います。

