地頭の良い子を育てるために①
「もう少し見てから決めたら?」
そう声をかけても、子どもは「絶対これがいい」と言い張る。親には、このあと「やっぱり、あっちがよかった」と言い出す姿が目に浮かびます。
そんなとき、皆さんならどうされるでしょうか。あとで困るのが分かっているから、親が止める。あるいは、一度声をかけたうえで、本人に決めさせる。
私は、小さいうちに、こういう場面で自分で決めて、小さな失敗を経験しておくことが、考える力を育てるうえで大切だと思っています。
「やっぱり、あっちのおもちゃがいい」
ある親御さんが、娘さんを連れて、友人が経営するおもちゃ工場に見学に行ったそうです。
工場のオーナーが、「ここにあるおもちゃの中から、好きなものを一つあげるよ」と言ってくれました。娘さんは大喜びです。
見学が始まってすぐ、かわいいお人形が目に入りました。
「私、このお人形がいい!」
親御さんは、「まだ始まったばかりやから、もう少し見てから決めたら?」と声をかけました。それでも娘さんは、「これがいい。絶対これがいい」と譲りません。「本当にそれでいいの?」と念を押しても気持ちは変わらなかったので、そのお人形をいただくことにしました。
ところが、見学を進めると、おもちゃのお家や、かわいいぬいぐるみが次々と出てきます。
「やっぱり、あのお家がいい」
「あのぬいぐるみと交換してほしい」
娘さんは、とうとう泣き出してしまいました。それでも親御さんは、「あのお人形がいいって、自分で決めたよね」と伝え、交換をお願いすることはありませんでした。
親にとっては、おもちゃ一つのことです。でも、娘さんにとっては、目の前にもっと欲しいものがあるのに、それを選べない。きっと、ずいぶん悔しかったと思います。
その悔しさが、次に何かを選ぶときに生きてきます。「前はすぐに決めたら、あとでもっと欲しいものが出てきたな。今度は全部見てから決めよう」。そうやって、自分の経験をもとに考えられるようになります。
私がこのお話でいいなと思うのは、親御さんが、最初に「もう少し見てから決めたら?」と伝えたうえで、最後は娘さんに選ばせたことです。あのとき親が「まだ決めたらあかん」と止めていれば、娘さんは最後まで見てから選べたでしょう。でも、「どうして待った方がいいのか」を、これほど実感する機会にはならなかったかもしれません。
空いた1時間を、いつから自分で決めるのか
以前、め塾で、夏休み中の高校生に声をかけたことがあります。
「その時間、学校も部活もないんやったら、塾に勉強しに来るか?」
すると、その生徒は「お母さんに聞いてみないと分かりません」と答えました。その後、お母さんからは、その時間は家で勉強させるというお話がありました。
私がそのとき気になったのは、塾と家のどちらで勉強するかよりも、本人がその1時間をどう使いたいのか、ということでした。家でやるなら何を進めるのか。塾に来るなら何を質問したいのか。高校生なら、自分の勉強の進み具合を見て、そういうことを考える機会があってほしいと思ったんです。
お母さん方が忙しいのは、よく分かります。子どもに任せていたらなかなか進まない。横で見ていると、「もう私がやった方が早いわ」と思うこともあるでしょう。予定を決めてあげれば、その日はスムーズに回ります。
ただ、時間の使い方は、自分で決めてみて初めて分かることが多いものです。「30分でできると思ったけど、1時間かかった」「夜にやるつもりだったけど、疲れて集中できなかった」。そういう経験があって、次は早めに始めようとか、難しいものは先にやろうとか、自分なりの工夫が出てきます。
高校生になったある日、急に「今日から自分で管理しなさい」と言われても、すぐにできるとは限りません。小学生のうちから、まずは放課後の30分や、休日の午前中といった、身近なところで練習できると思います。
夏休みの宿題が予定どおりに進まなかったら
たとえば、夏休みの宿題です。
「いつ、何をやるつもり?」
そう聞いて、まずは本人に計画を立ててもらいます。子どもは「最後の1週間で全部できる」と言うかもしれません。親から見れば、「その量を1週間でやるのは大変やで」と言いたくなります。
そこで、「算数は何ページある?」「読書感想文は、本を読む時間も入ってる?」と聞いてみる。必要なことに目を向けるきっかけをつくったうえで、いつ何をするかは、本人に決めてもらいます。
途中で予定より遅れたら、そこも考える機会です。たとえば、算数の問題集があと20ページあって、今日は2ページ進んだとします。
「今日と同じペースなら、あと何日かかりそう?」
「提出まであと5日やけど、どう組み直す?」
そう聞かれて初めて、「このままやと間に合わへん」と、自分で気づくことがあります。1日に進める量を増やすのか、時間のかかる問題には印をつけてあとで質問するのか。本人が考えたやり方で、もう一度進めてみる。計画を立て直すところまで経験しておくと、次に計画を立てるときの見通しも変わってきます。
夏休みの終わりに慌てることもあるでしょう。そんなときは、宿題を終えたあと、落ち着いてから「何がいちばん大変やった?」「来年は何から始める?」と聞いてみてください。本人の口から「感想文は本を読むところからやから、先にやっとく」と出てくれば、その子なりに、失敗から次のやり方を考えたということです。
「次はどうする?」と聞いてみる
勉強でも、「分かった」と思って先に進んだのに、翌日、一人では解けないことがあります。そこで「解説を読んだときは分かったけど、自分では式を立てられへんかった」と気づく。次からは「答えを閉じて、もう一度解けるか確かめてから進もう」と考える。そうやって自分で勉強のやり方を修正できる子は、学年が上がって課題が難しくなったときにも、自分で打てる手が増えていきます。
もちろん、任せていても、子どもが困って相談してきたら、一緒に考えればいいと思います。「どこで困った?」「何なら今日できそう?」と話を聞くだけで、本人が次にすることを見つけられる場合もあります。自分で決めたことに責任を持つというのは、うまくいかなかったときに、自分もその後の立て直しに関わるということです。
お子さんが「これにする」「こうやって進める」と言ったとき、やり直しがきくことなら、まずは本人に任せてみてください。そして、うまくいかなかったときには、「次はどうする?」と聞いてみてください。
小さいうちから、自分の言葉で決めて、自分でやってみて、その結果から次のことを考える。そういう経験を、ご家庭の中で少しずつ積ませていただきたいと思います。

